料理のスタイルとその影響
緑豊かな島国ニュージーランドには、絶品のクレイフィッシュ(イセエビ)から、やわらかいラム肉(子羊)、赤身の味わい深いベニソン(鹿肉)にいたるまで、新鮮な食材が豊富に揃っています。食材に恵まれているこの国の食事が美味しくないわけがありません。ここでは、料理とワインのスタイルやその影響について紹介しましょう。
今注目されているのは、環太平洋地域の食文化を西洋料理に取り入れたパシフィック・リム料理です。ニュージーランドのシェフたちは、世界各国の様々なスタイルをうまく盛り込みながら、より素晴らしい料理を作ることに情熱を注いでいます。美味しくて新鮮な食材をふんだんに使った斬新なメニューが続々と登場し、独創的な盛りつけで目も楽しませてくれます。
ニュージーランド料理とは何かを一言で表すなら、「多種多様」が当てはまるでしょう。ニュージーランドは優れた食材に恵まれている国です。美味しいアスパラガス、特産のブラフ・オイスター(カキ)やマールボロのマッスル(ムール貝)に代表される魚介類、世界一美味しい乳製品、みずみずしい果物、そして最近では有機食品なども手に入るようになりました。最高級の料理に必要な素材が全て揃っているといっても過言ではありません。この国のシェフは自国はもちろんのこと、アジア、ポリネシア、ヨーロッパの伝統料理から刺激を受けながら、ニュージーランド料理とは何かということを常に見つめ続けています。
世界の長い歴史から見れば、ニュージーランドはまだまだ若い国です。その若さゆえに、料理を作る側も食べる側も、新しい試みに対する意欲と活気に満ち溢れています。ヨーロッパ系と先住民マオリをはじめ、太平洋諸国、アジアやインドなど、様々な地域の民族が共存する、ユニークな多文化社会であることも、活気ある食文化を作り出す大きな要因となっています。このように異なる食文化を上手く生かした斬新なアイデアをもつニュージーランド出身のシェフが世界中で活躍しています。
南島のクライストチャーチ出身のフィリップ・クラールは、ロンドンのリッツ・ホテルのシェフ・トゥールナン(アシスタント・シェフ)を務め、ヨルダンのフセインI世王のお抱えシェフも務めました。現在彼は、受賞経験を持つ評判の高いクライストチャーチのレストラン「ル・ボン・ボリ(Le Bon Bolli)」のオーナーをしています。
ニュージーランド人のフィリップ・ジョンソンはオーストラリアに渡り、1995年、ブリスベンでレストラン「エコー・ビストロ(e'cco bistro)」を始めました。開店以来、彼はこのレストランで数多くの賞を受賞してきました。最近では「オーストラリアで最も優れたシェフ50人」にも選ばれました。「エコー」のメニューには故郷ニュージーランドを思わせるレシピが紹介されています。またワイン・リストには、2000年のクラウディ・ベイ・ソーヴィニヨン・ブラン、1999年のワイラウ・ピークス・シャルドネ、1999年のテ・マタ・カベルネ・メルロなど、上質のブドウが収穫された年のニュージーランド産ヴィンテージ・ワインも名を連ねています。
また、パシフィック・リム料理を紹介し、ロンドンの食文化を揺るがしたピーター・ゴードンは、世界的に最も高い評価を得ているニュージーランド人シェフと言ってもよいでしょう。ロンドンの最高級レストラン「プロヴィドアーズ(The Providores)」経営のかたわら、2005年4月、オークランドのスカイシティ・グランド・ホテル内に自分の名前を冠した「ダイン・バイ・ピーター・ゴードン(dine by Peter Gordon)」をオープンしました。
伝統に縛られず、新鮮な食材が手に入る環境で、自由に料理の創作ができるということは、ニュージーランド人シェフに共通する素晴らしい特権と言えるのではないでしょうか。彼らは、海外の料理に地元の食材を取り入れることはもちろん、想像もつかないような組み合わせをうまくまとめ、全く新しい料理を作ることも楽しんでいるのです。
「ワインは世界で最も洗練されたものである。」 - アーネスト・ヘミングウェイ
ニュージーランドはワインの生産が盛んです。一流のワインは、ラム肉やマッスル(ムール貝)といった数多くの名産品をしのぐほどの人気です。国際的な品評会での高い評価とそれにともなう受賞の数々は、ニュージーランド産ワインが全般的に良質で洗練されていることを表しています。
ワインの素晴らしさはワインそのものが雄弁に物語っていますが、受賞という形がすべてではありません。ニュージーランドのグルメは、一緒に飲むワインがあってこそ楽しめるものです。シーフードの美味しい土地には、地元の料理にぴったり合った質の高いシャルドネやソーヴィニヨン・ブランなどの白ワインが必ずあります。ニュージーランド産のソーヴィニヨン・ブランは、新鮮なシーフードや白身の魚によく合います。シャルドネはどんな食べ物とも合う万能ワインとして定評がありますが、シーフード料理との組み合わせも最高です。
ソーヴィニヨン・ブランで有名なマールボロ(クラウディ・ベイの生産地)をはじめ、シャルドネのギズボーン、ピノ・ノワール(赤)とピノ・グリ(白)に定評があるセントラル・オタゴとマーティンボロなど、ニュージーランドには10ヶ所の主要ワイン生産地があります。ホークスベイは奔放な味のカベルネ(赤)で知られています。オークランドのワイヘキ島では、世界の上位20に入るカベルネ・ブレンドのひとつ、ストーニーリッジ・ラローズが造られています。特に、マールボロ地方とホークスベイ地方は、ニュージーランド高級ワインの二大生産地域です。
「私のランチからコルク(ワイン)を盗むとはなんて呆れた奴なんだ!」 - W・C・フィールズ
ニュージーランドのワイン&フード・フェスティバルなら、たとえ「ランチ」からワインが盗まれても(ワインが飲めない)としても心配することはありません。ワインが味わえなくても、それに見合うだけの食べ物がところ狭しと並んでいます。数多くの出店はもちろん、エンターテイメントも楽しめるワイン&フード・フェスティバルは、全国各地の年間イベントの中でも、特に夏(12月から3月にかけて)の主役となる祭典です。中でも最も有名なのは、2月に行われるマールボロ・フード&ワイン・フェスティバルです。特に、マールボロ地方のブレナムにあるモンタナ・ワイナリーのブランコット・エステートで開催されるイベントには、世界各地の人々がやって来ます。とにかく人気のあるイベントなので、町の宿泊施設に滞在するつもりなら、前年の8月中旬までには予約しておかなければなりません。マールボロ地方は国内でも最大規模のブドウとワインの生産地なので、この機会に飲み比べてみるとよいでしょう。もちろん、その他のニュージーランド・ワイン、ニュージーランド料理や国際色豊かな料理を味わうことができるのも魅力です。
ちょっと珍しいものでは、ホキティカ・ワイルド・フード・フェスティバルがあります。フーフーグラブ(いも虫)の寿司やマウンテン・オイスター(山のカキ、雄羊の局部の通称)など、レストランでは滅多に食べられない物を味わうことができます。その両方を地方特産のハリエニシダの花のワインと一緒に味わうのもまた格別でしょう。もちろん、珍味だけでなく、ホワイトベイト(シラス)などの美味しいシーフードやベニソン(鹿肉)のほか、伝統的なニュージーランドの食べ物も楽しめます。1990年に第1回が開催されて以来、年々人気が高まり、今年は海外旅行者を含む多くの人々が集まりました。本来は南島ウエストコースト地方ならではの食材とライフスタイル、もてなしの心を紹介するイベントとして始まったものですが、趣向を凝らした美味しい珍味を楽しめるフード・フェスティバルとして知られるようになりました。恒例のワイルドフード・シェフ・チャレンジは、招待された3人のシェフが、それぞれ当日受け取る箱の中の秘密の食材を使って腕を競いあう(2コース料理、1時間制限)というもので、このイベントの人気企画になっています。
他にも、ハーベスト・ホークスベイ・ワイン&フード・フェスティバル、マーティンボロ・フード&ワイン・フェアやオークランドのデボンポート・フード&ワイン・フェスティバル(いずれも2月に開催)など、美味しい食べ物とワインを楽しめるフェスティバルはたくさんあります。シーフード好きの人には、毎年5月に開催されるブラフ・オイスター&サウスランド・シーフード・フェスティバルがお勧めです。
「いい酒はいい守り酒ですよ、うまくあつかえば。酒の悪口はよしましょう」 - ウイリアム・シェイクスピア、オセロより
ほんの少し前まで、ワイン・トレイル(ワイナリー巡り)は、はしご酒の口実のようなものでした。最近では、ワインの醍醐味は料理との組み合わせにあることが広く知られるようになり、気軽に入れる屋外のカフェや最高級の食事を堪能できる豪華なレストランなどを併設したワイナリーが増えてきました。おかげで、ニュージーランド人の舌も肥えてきたようです。ワインの産地ならどこにでも、ワイナリー・ツアーやワイン・トレイルがあります。世界でも一流のワイン(一般市場では手に入らない、そのワイナリーでしか購入できないワインなど)を味わいながら、ワインと絶妙な組み合わせの食事にも舌鼓を打ちましょう。
オーダーメイドの貸切りツアーから、気軽に参加できる団体バスツアーまで、ニュージーランド各地では様々なワイナリー・ツアーが催行されています。貸切りツアーは、はっきりした好みがある人や時間に制限がある人にお勧めです。どんな形態のツアーでも、クィーンズタウン、マールボロ、ホークスベイなどの地域では、美味しい食べ物やワインとともに、素晴らしい大自然の景観も満喫できます。
ニュージーランド各地には、小規模なブティック・ワイナリーからこの上なく豪華なワイナリーまで、ありとあらゆるタイプのワイナリーがあります。ホークスベイにあるシレニ・エステート(Sileni Estates)は、全国で最も新しく気品あふれるワイナリーです。国内外から訪れる人々に完璧なフード&ワイン体験を提供するために、装飾にも妥協のない、華麗なデザインが施されています。敷地内には屋外席も設けた高級レストランの他、グルメセンターとワインセラーがあります。ホークスベイには35のワイナリーがあり、その多くは素晴らしいレストランを併設していますが、シレニはその中でも究極のワイナリーと言えるでしょう。ニュージーランドは白ワインで有名ですが、シレニを訪れるなら、1998年物のメルロ/カベルネなど赤ワインも試す価値があります。
ワイナリーツアーに参加すると、ヨーロッパ系移民とその歴史に触れることもできます。この国のワイン造りの基盤は、かつての移民がもたらした故郷の伝統的な技法にあります。それが子孫に受け継がれてニュージーランドならではのワインが生まれていることは、ニュージーランド料理が諸外国の食文化を盛り込みながら発展してきたことと似ています。オークランドの西に、クメウ・リバーという受賞歴のある有名なワイナリーがあります。ここは、1938年にユーゴスラビアから息子マテを連れて移住してきたブラコビッチ夫妻が、クメウという小さな田舎町に住み始めた1944年に創設されました。世代を超えて、1989年、マテの息子の1人マイケルは、ロンドンにある誉れ高いマスター・オブ・ワイン協会のニュージーランド初のメンバーとなりました。
ニュージーランドは、若い国として、歴史ある国々から学ぼうという意欲を原動力に、新しい料理やワインを創出して注目を集めてきました。この国のシェフやワイン職人の手から数々の受賞作品が生み出されるまでになったのも、多様性を受け入れ、独自のものを創造する力を養ってきたことの表れです。それは、自由な表現力、斬新、洗練、新鮮、そして活気という、ニュージーランドならではの要素の結実とも言えるでしょう。
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