森の再生、鳥の声にも癒されて - ティリティリ・マタンギ島 - エコ・ツアー特集

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ボランティアたちの植林が森を再生し、鳥の楽園になっている島がある。北島のオークランド市の港から船で1時間ほどのティリティリ・マタンギ島だ。ニュージーランドの歴史の一面を象徴し、普通の人たちが生態系の復活にどう取り組んだか分かる島ともいえる。ある晴れた日に訪ねてみた。

船が近づくにつれて、島の緑がはっきりしてきた。濃い色、淡い色、様々な緑に覆われている。実際に木々が見えてく ると、緑の豊かな広がりは想像以上だった。なぜ、ここまで再生できたのか。謎解きをしたくなる気持ちがつのった。桟橋から上陸すると、まず環境保全省 (DOC)の駐在員が島の説明をしてくれた。鳥の生態を変えないため、エサをやらない。携帯電話の電源を切る。自分が出したごみは持ち帰る……といった具 合だ。

島は公開保護区といって、誰でも行けるが、ルールがあるのだ。上陸できる人数も一日で150人までと決まっている。自分たちを縛るものはなくて、むしろ楽 しくしてくれるルールではないか。説明を聞いたあと、島内ツアーが始まる。いくつかのグループに分かれ、どのグループにもボランティアのガイドがつく。 DOCが管理している島だが、実際に運営しているのはボランティアたちだ。私のグループをガイドしてくれたのはシャロンさんという女性だった。ふだんは オークランド空港で働いているそうだ。

歩く小道を緑の木立が覆い、島全体に広がっている。どれも再生した緑だ。ニュージーランドは、1000年ほど前に南太平洋から移住してきたマオリが先住民 だが、19世紀後半になるとヨーロッパ人の本格的移住が始まった。牧草地を作るため原生林が切り倒されたり、焼かれたりした。DOCによると、国土の約7 割を覆っていた原生林は23%にまで減ってしまった。面積220ヘクタールのこの島でも1850年代から牧畜が始まり、1980年に保護区に指定された 時、島の94%に樹木の姿はなかった。ニュージーランドの歴史の全体に通じる島なのだ。

ほかと大きく違うのは、植林して元に戻そうという運動が始まったことだった。オークランド大学の研究者や近隣の愛鳥家らが呼びかけ、普通の市民たちがボラ ンティアで参加した。苗木は島の中で手に入れた。谷地や低地など牧畜に関係ないわずかな場所に残っていた樹木から種を集めて発芽させ、苗木にした。「島の 外からもってきた種や苗木は根付きがよくなかったからだ」と、初期の事情を知っている人が教えてくれた。植林は1984年に始まり、94年まで足かけ11 年で30万本近くが植えられた。初めは朝から夕方まで一日中植えた。すると、参加者が徐々に減っていった。

「午前中だけの植林にして、午後は島内を散策したり、浜辺で泳いだり、自由に遊ぶようしたの。そうしたら、また増えてくれました」と、最初からかかわって いるバーバラさんが言う。結局、参加したボランティアは数千人にもなったという。いくつかの事情が順に分かるにつれて、再生の謎解きも進んだ気がする。そ う納得して、緑の森を歩いていく。ポフツカワという大きな木の前でシャロンさんが「これも島で種をとって植えた木です。ニュージーランドのクリスマスツ リーといわれ、12月に赤い花をたくさん咲かせ、鳥が蜜を吸いに来ます」と教えてくれた。

植林したもう一つの目的は野鳥の聖域作りだった。移民たちが森林を伐採したことによって野鳥の多くが営巣地を失った。移民が連れて来た犬や猫、ネズミの食 害にもあい、固有種の鳥が減ったり絶滅したりした。これもニュージーランドのあちこちで起きたことだ。植林した面積が広がるにつれて、そうした鳥を少しず つ別の場所から連れてきて放し、その数は合計11種になる。島へ自由に飛んでくる鳥を含めて今では約80種類が見られるそうだ。木の枝の間に姿が見えた トゥイ。マオリの言葉で緑を意味するカカリキ。花の蜜を吸うベルバードやスティッチバード。どれも色鮮やかで、声も美しい。小柄なロビンや、飛べない鳥タ カヘは人に寄ってくる。

蜜を吸う鳥。虫を捕まえる鳥。それぞれよく見ると、くちばしの形が微妙に違う。それまではどの鳥を見ても一般的な鳥にしか見えなかったものが、いろいろ教わると、一羽一羽の個性が見えてきて、愛らしく感じてしまう。これも「エコ」の意味なのだと思った。

いったん曇った空が再び晴れ、高台から見える海の広がりも明るい青に変わった。鳥ばかりか景色までが気持ちを和ませてくれる。歩き始めて、ざっと 2時間で終点だ。小高い丘で、灯台もある。売店には土産物や記念品が並ぶ。何を買っても島の活動を維持する寄付になると聞いて、鳥の写真入り解説書を買っ た。

ライター:青柳光郎(あおやぎ・みつろう)

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